もの書きのてびき聞く

モモコグミカンパニー(BiSH)インタビュー「歌詞から小説へ、横断するように書くこと」後編

あの人に聞いてみたい、「書く」ことの話。今回お迎えするのは、“楽器を持たないパンクバンド”BiSHとして活動されるモモコグミカンパニーさんです。これまで手がけてきた作詞やエッセイのこと、3月に出版された初の長編小説『御伽の国のみくる』のこと、楽曲にとどまらず多領域に渡って言葉と向き合うことについてお伺いしました。

Interview, Text:深澤 冠 / Photo:岡庭 璃子

モモコグミカンパニー

“楽器を持たないパンクバンド”BiSHの結成時からのメンバーで最も多くの楽曲で歌詞を手がける。読書や言葉を愛し、独自の価値観、世界観を持つ彼女が書く歌詞は、圧倒的な支持を集め、作詞家としての評価も高い。2018年と2020年のエッセイの発表に続き、今年3月下旬、自身初の小説『御伽の国のみくる』出版。

『御伽の国のみくる』書籍情報

公式サイト「うたたねのお時間」

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モモコグミカンパニーとは違う素で書く

今回書いた小説の主人公はアイドルを目指しているので、私のことって思われそうですけど主人公=自分ではありません。もちろん分かる部分もあるけど自分の性格とは近くないし、主人公のやっちゃえという姿勢はむしろ自分と違うのでスカッとします。そういう意味では、エッセイは自分の素を出していると思います。BiSHの私を生活の糧としてくれる人がいるので、その人たちに誠実に向き合いたいと思って、素で書くことを大事にしていますね。ただ、この素も本名の自分より、モモコグミカンパニーの素に近いです。

私はエッセイになると道徳的なことを書きたいという欲があるらしくて、最後はいい話や学びがある感じで終わりたいと考えてしまいます。でも、小説は絶望のまま終わってもいいと思うし、あまり読み手のためにという意識はありません。私は昔から妄想族で、仮の世界を考えるのがすごく好きなので、小説は妄想欲がすごく満たされました。小説はモモコグミカンパニーではなく、きっと本名の自分の素で書いているんだと思います。

「本名の自分」「モモコグミカンパニーの自分」と自分が何層にも分かれていて、引き出しを使い分けていますね。モモコグミカンパニーを演じているといえばそうなんですけど、あんまり演じすぎるのもモモコグミカンパニーっぽくないと私は思っていて。演じすぎないように演じる、難しい感覚ですね。なるべく自分とモモコグミカンパニーは引き離したくないという気持ちもあるし、でもやっぱり別ものでもある。生きてきた全部が自分だけど、自分の中にはいろんな人格があるじゃないですか。そこが無意識に引き出されて、小説の登場人物ができたのかもしれないです。

読んでほしい文章は寝かせる

Twitterも素のモモコグミカンパニーで書いていきたいと思っているんですけど、「わかってほしい!」と思って書いた文章ほど伝わらなかったりするんです。まったく伝わっていなくて愕然としちゃうこともあるんですが、それはたぶん私のせいで。パーっと書いた文章ってやっぱりなかなか伝わらない。だから私は、人に読んでほしい文章は寝かせるべきだと思っています。たまに何のプロモーションでもないポエムっぽいものを投稿したりするんですけど(笑)、それも一週間くらい寝かせます。何か思いついてもまずは寝かせて、後日またまっさらな気持ちで見て、編集してから送ります。LINEの文章でも、長文であればそうしていますね。

30万人くらいのフォロワーがいて、ツイートでも「救われました」と手紙を書いてくれる人がいる中で投稿するってことは、内容によっては命に関わることだと考えています。だからこそ、この文章で絶望している誰かに光が差したらいいなと思うし、逆に誰かを絶望させるような言葉は絶対書かないようにしている。ツイート一つでも、そこまで重く捉えたいと思っています。

ライブの煽りもメモしておく

普段、文章はパソコンでWordを使って書いています。あとはノートと青いペンも使っています。編集者の方が青ペンを使っていて、そこから私も青を使うようになりました。ノートは頭の中を整理する時に使っています。たとえば、エッセイの取材先への質問事項をまとめたり、話を聞いていていいなと思った言葉をノートにメモしたりしています。目の前でパソコンを開いているのが偉そうな気がするので、取材中はノートに書いてそれをWordで清書しています。

エッセイはスマホのメモアプリでもよく書いていますね。何文字以内で書いてくださいと指定されることがすごく多いので、特に文字カウントができるアプリを使っています。まずスマホでバーっと荒い文章を書いて、それをWordでまとめます。歌詞もデモ音源を聞きながらメモアプリに書いています。書いたらGarageBandでデモ音源に歌入れして、プロデューサーの渡辺(淳之介)さんに送っています。

あと実は、ライブの煽り文句もスマホで書いているんですよ。これは私が作詞した『デパーチャーズ』っていう曲のイントロで言った煽り文句です。ちょっとダサくて恥ずかしいんですけど(笑)。他にも「BiSHは好きですか!」とか。私はライブで煽りをすることが多くて、その場でパッと出てくる人だったらいいんですけど、私はだめなのでめっちゃ考えてから出ています。インスタライブで話すことも、スマホで書いてから話しますね。真面目ですよね。

仕事とは別に、小学生から今まで書き続けているノートもあります。日記とポエムの間みたいな、自分の感情をただ吐き出すだけのものです。最初の2ページしか書いてないノートもたくさんあるし、新しいノートをすぐ買っちゃうんですけど。あとは、悲しかったり嬉しかったりした素の自分の感情を忘れないために、自分に手紙を書いたりもします。文章に残しておくと、こんなことがあったけど今も生きているからこの先も大丈夫とか、生きてきた日々が自分にとっては無駄じゃないと思えるので、後から見返せるようにしておきたいんです。誰かに支えてもらえたらいいけど、根本的には自分で自分を支えなきゃいけないし、自分に優しい人ほど人にも優しくなれると思うので、ノートや手紙は生きるために書いているようなところがあります。

新しいノートの1ページ目の気分

普段MacBookを使わないのでそこから挑戦だったんですけど、今回stoneを使わさせていただいてとても良かったです。真ん中から文章が始まるのが新鮮だったし、画面が本当にまっさらな状態じゃないですか。だから毎回新しいノートの1ページ目に書くようなわくわく感や新鮮さがありました。書きかけのノートがたくさんある話をしたと思うんですけど、まっさらな1ページ目のワクワク感が好きなんですよね。何を書こう。どんなノートにしよう。それが毎回感じられるのが魅力的ですね。

実際にstoneでエッセイを書いてみたんですけど、すごくきれいな場所で書いている感覚になりました。周りにツールボタンがいろいろあるアプリが片付いていない部屋だとしたら、stoneは図書館で書いている感じ。頭の中の雑音が消えて、ちゃんと書き物に向き合うぞという姿勢になれたので、stoneで小説を書いたらまた違った内容になったんじゃないかなと思います。

私はすごく大学のレポートに向いているなと思います。自分もそうですけど、文章を書く人の多くは仕事や課題をやるためにアプリを開いていて、「書き終わらなきゃ」と思いながら書いていますよね。だからとても億劫になりがちなんですけど、stoneではその義務感がうまく取り除かれた気がしました。書かされているんじゃなくて書いているんだと、文章に向きあえると思いました。

新しい原稿用紙モードは便利ですね。書いている部分にだけ原稿用紙のマスが出てくるので、埋まらないマス目を気にしなくていいのがうれしいです。小説もこのくらい書こうかなと文字数を気にして書いていた時期もあったので、そういう時にあったらとても助かります。原稿用紙というだけで昔の小説家になれた気にもなりますし(笑)。

文章を仕事にする自分についても、考えていかなければいけないと思っています。作家の人には、「この人はこういうものを書く」といったアイデンティティやジャンル分けがあると思うんですけど、私にはまだまだそれがなくて。これから掴んでいくものだと思っているし、読んでもらった人の意見を聞いて自分が考えなきゃいけないことだと思っているので、ここから頑張っていきたいです。今回も小説の感想をいただけると思うので、その感想から真摯に向き合って逃げないようにしたいなと思っています。

BOOK SELECTIONモモコグミカンパニーさんが影響を受けた6冊

『改良 』遠野遥(河出書房新社)

「小説の書き方について学んだ一冊です。遠野遥さんと対談するにあたって読んで、対談した後にまた読み直したので、こういう気持ちで書いているからこういう文体だったんだなと意識できたし、内容もとても好きな作品です。」

『私の証明』星野文月(百万年書房)

「2冊目のエッセイ『きみが夢にでてきたよ』を書くときに、編集の方におすすめしてもらいました。道ですれ違った知らない女の子の心の内をただただ読んでいる感覚になって、ここまでさらけ出していいんだとエッセイの参考になりました。」

『傘をもたない蟻たちは』加藤シゲアキ(KADOKAWA)

「タレント活動をしながら小説を書いている人の中でも、加藤シゲアキさんの作品は自分のモチベーションになりました。あんなに忙しい人でも書いているんだから私も書けると背中を押されたし、とても面白かったです。」

『よるのふくらみ』窪美澄(新潮社)

「窪美澄さんはすごく尊敬する作家さんの一人です。人の身体についてたくさん書かれていて、私もそこにずっと興味があったので小説にも表れていると思うんですが、自分がどんな小説を書きたいのか考える上で無意識に参考にしていたと思います。」

『西の魔女が死んだ』梨木香歩(新潮社)

「人生で一番影響を受けた本です。小説で泣いたことは数えるほどしかないんですが、最後の数ページでめちゃくちゃ泣きましたし、小説はただ読んで楽しいだけでなく現実の生き方に影響するものであると教えてくれました。」

『勝手にふるえてろ』綿矢りさ(文藝春秋)

「すごく妄想癖のある女の子の主人公が自分と重なって、面白すぎて一気読みしました。こんなに早く読み終えたことないというくらい没頭して読んだ一冊です。映画化もされているんですが、そちらも大好きです。」

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