今回長編小説を書こうと思ったきっかけのひとつは、BiSHの解散です。小学生の頃からずっと、小説を書くことには興味がありました。書いてみたこともあるんですが、自分で読んでもおもしろくないし、自信が持てませんでした。でも、解散が発表されて、これから何をしていきたいんだろうと考えたときに、言葉という本当に自分の好きなことから逃げないで向き合ってみようと思えるようになってきて、長編小説を書き始めました。これをきっかけに小説が嫌いになるかもしれないし、今書けなかったら一生書けないんだろうなと思うと、手を伸ばすのも本当は怖かったんですけど、解散というタイミングに背中を押されました。
出版社から頼まれたわけではないので、まず自分から河出書房新社さんに中編小説を2本送ってみました。そのうちの1つが今回出版される『御伽の国のみくる』の原型です。ただ、原型といっても、最終的にできあがったものとは違うところがたくさんあります。たとえば、最初は一人称で書いていたんですけど、途中から全て三人称に直したんです。一人称の方が心情は書きやすいんですが、三人称は見えている景色やできごとを俯瞰して書けるので、小説初心者は三人称の方が書きやすいと編集の方に教えてもらいました。他にも、内容の荒い部分や広げた方がいい部分を推敲していって、中編小説を256Pの長編にしていきました。もともとは、メイド喫茶で働く主人公の女の子が接客しているお客さんの一言を思いついて、そこから膨らませていったんですが、その一言は変わることなく作品に残っています。
もちろん物語を考えるのは自分ですが、編集の方の助言をいただけたのはとても助かりました。ここは物語とは関係ない、冗長だから、と自分が良いと思っていた部分がどんどん校正でなくなっていったのは衝撃的でしたが(笑)。ちゃんと商品として成立させるために、自分のエゴが出すぎているところを編集者は察知してくれるんですよね。書くときは思うままに書くけど、最終的には一本の物語としてすっきりさせる。読み手のためにきちんと物語を書くことを経験できたのは、今回の一番の学びです。