もの書きのてびき聞く

AYANAインタビュー「何通りもの正解に向かって書いていく」

あの人に聞いてみたい、「書く」ことの話。今回は、ビューティライターとして数多くの化粧品ブランドのコンセプトテキストやコピーを手がけるほか、文章講座の主宰やエッセイの出版など、多方面で「書く」ことに携わるAYANAさんにお話を伺いました。

Interview, Text:軽米 かおる / Photo:岡庭 璃子

AYANA

ビューティライター。コラム、エッセイ、インタビュー、ブランドカタログなど広く執筆。化粧品メーカー企画開発職の経験を活かし、ブランディングや商品開発にも関わる。2021年、エッセイ集『「美しい」のものさし』(双葉社)を上梓。文章講座EMOTIONAL WRITING METHOD(#エモ文)主宰、OSAJI メイクアップコレクションディレクター。

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EMOTIONAL WRITING METHOD

書くためには、まず納得が必要

私はもともと化粧品会社で企画系の仕事をしていたのですが、その後独立してライター・プランナーになりました。今は「ビューティライター」と肩書きをあらためて活動しています。この仕事をする上で常に持っているのが、「正解はひとつじゃない」という感覚です。化粧品や美容の商品というのは、使う人やその時の気分によって効果が変わったり、ブランディングやパッケージの力で受け手の印象が変わったりすることがとても多いんです。なので、「この成分が入っているからいい商品です」といった、たったひとつの方程式があるような伝え方はせずに、ブランドや商品のよさをいろいろな視点から考えて伝えることを大切にしていますね。

これは、仕事そのものとの向き合い方にも共通する姿勢です。例えば「この商品の魅力を、Aという切り口で書いてほしい」という依頼があったとします。もし自分が、「この商品の魅力は、Bという切り口で伝えたほうがいいんじゃないか」と思っていた場合、その気持ちをなかったことにしてAについて書くことはしません。そこで自分の意見を強く主張するのかというとそうではなくて、「どうしてクライアントはAという切り口で伝えたいんだろう」ということを、自分が納得するまで確認していく作業をするんです。Aという切り口を求めている人が存在するのであれば、それを発信する価値はあるし、発信するためにはそれについて深く理解しないといけないですから。

私が普段受けている仕事は、当たり前ですが、主語は私ではなく、クライアントであるメーカーやブランドです。ターゲットとどのようなコミュニケーションをすれば彼らの価値をきちんと届けられるのかを考えながら、お互いの認識をすり合わせるようにしています。自分の素の感覚は持ちつつも、クライアントの感覚を溶け込ませて書くようなイメージですね。

コピーやコラム、コンセプトテキストなど、いろいろな文章を書いていますが、文体を大きく変えたり、キャラクターを使い分けたりといったことはしません。ただ、「どういう人が読むのか」といった点はかなり考えながら書いています。例えば高級コスメブランドの商品について書くときは、美容の知識がある方に向けた文章が求められますし、ティーン向けのプチプラな商品であれば、ノリのよいコミュニケーションがしっくりくる。コラムやエッセイであれば、「どんな媒体に掲載されるのか」を考えることも大切です。

ストレートさが信頼につながる

仕事のライティングでは薬機法※1を守る必要があるので、書けることが限られています。一方で、プライベートのSNSはもっと気軽に文章を書ける場。例えば、Instagramでは化粧品の紹介をすることが多いのですが、自分がいいと思うものに対して、素直に感想を書くという姿勢を大切にしています。それがフォロワーの方への信頼につながり、結果的に私のビューティライターとしてのブランド力になっているのかもしれません。

実は私、インターネット歴がすごく長いんですよ。Instagramもリリースされてすぐはじめましたし、もっと前はインターネットで日記を書いていて、ずっとネット上でしゃべり続けてきた感覚があります。今はSNSとビジネスが密接に結びついていますが、私はそれ以前の「みんなで楽しむインターネット」みたいな時代が好きなんです。だからその当時と同じ感覚でSNSを使っていますし、商業利用はしないと決めています。

※1 医薬品や医療機器などの品質・有効性・安全性の確保などによって、保健衛生の向上を図ることを目的とした法律。

教えることで、自分自身もクリアになる

3年ほど前に、オンラインの文章講座「EMOTIONAL WRITING METHOD(#エモ文)」をはじめました。パーソナルコース(入門編・応用編)とコーポレートコースがあり、入門編では自分らしい文章や人の心に響く文章を書くヒントをお伝えしています。応用編と、コーポレートコースでは、商品のセールスポイントの伝え方やキャッチコピーを書く方法など、マーケティング色の強い内容を扱っています。というのも、カリキュラムをつくるにあたって、自分の文章の書き方についてあらためて精査してみたのですが、その時にマーケティング的な視点でものを書いてきたことに気づいたんです。化粧品会社で働いていたこともあり、「競合他社の商品より優れているところはどこか」「どういう人にこの商品を届けたいのか」といったことをずっと考えていて。その思考が文章を書くことにそのままスライドしているんですね。

#エモ文では、「感動」をひとつのファクターとして扱い、自分の感動する力を文章に活かす、道具にして文章を書くという方法を教えています。講座に来る方、特に入門編に来る方には「自分の感動を特別なものだと思ってほしい」ということを伝えています。そういった内容だからか、「カウンセリングみたいでした」という感想をいただくことが多いですね。

この講座を始めてみて、一番得をしているのは私自身だったりします。1回に10人分の文章を読むので、断片的ではありますが、10人の受講生の方がそれぞれどんなことを考えているのか知ることができる。フリーランスで仕事をしていると、どうしても自分の好きなものだけしか目に入らない環境に陥りがちなので、#エモ文を通して、「こういうものを好きな人がいるんだ」「こういう仕事をしている人が興味を持ってくれているんだ」ということを、文章を通じて知ることができるのはとても貴重な機会ですね。また、受講生の方が書いたものに毎回フィードバックをするのですが、これもすごく勉強になる。応用編では厳しいコメントを返すこともあるのですが、どのくらいの塩梅で伝えるかなど、文章を書く以外のコミュニケーションにも役立っていると思います。

思考に集中できる道具を使いたい

ライティングの仕事は、自宅の作業スペースにあるiMacを使うことが多いです。私は、感性の赴くままに文章を書くというよりは、「○○について何文字以内で書く」といった仕事をすることが圧倒的に多くて。なので、常に一行50文字、余白やフォントも同じという風に、フォーマットを決めて書いています。ソフトはずっとWordを使っていますが、プレゼンテーションで使う資料など、見た目を整えたい場合にはMacのアプリケーションのほうが適しているので、Keynoteなどを使っています。

外出先では、iPadのWordとGoodNotesを使っています。GoodNotesは打ち合わせや取材時のメモ、仕事のラフを書くのによく使いますね。書いたものをPDFにしてiMacに送り、そのまま展開できるのでとても便利です。仕事以外では、自分の目標や振り返りを書くのにSmythsonの手帳を使っています。表紙にメッセージが刻印されているのですが、そのバリエーションがたくさんあって面白いんですよ。海外サイトで毎回違うものをまとめ買いして楽しんでいます。

私にとって、日記を書くことは自分との対話をするようなもの。なので、余計なものがなく、思考に集中できるものに書きたいんです。Smythsonの手帳も、そういった理由から選んでいます。今回はじめてstoneを使ったのですが、書くことに集中できるので、日記のような個人的な記録を書くのに適したアプリだと思いました。あと、ビジュアル的にも美しく書けるので、文字を大切に感じられる。stoneを使うことで、自然と言い回しがきれいになりそうですし、詩や短歌を書くのにも向いていそうです。iPad版を開発中とのことですが、ポータブルになるので、気軽に使えて、用途の幅も広がるんじゃないかなと思います。

「どこにも属せない」という強さ

2021年にエッセイ『「美しい」のものさし』を出版しました。もともと「北欧、暮らしの道具店」のWebサイトでエッセイの連載をしていて、そのとき書いたものを手直ししつつ、新たに書き下ろしたものを加えました。この連載は、特に決まったテーマはなかったのですが、タイトルに「44歳のじゆう帖※2」という風に年齢を入れていて。ビューティの話題に限らず、私と近い年代の人が日常で感じるかもしれない違和感や生き方、子育ての話など、1回ごとに編集の方とテーマを決めながら書いていました。

『「美しい」のものさし』は、どういう人に向けた本なのか、ちょっとわかりづらいかもしれないのですが、強いて言うなら、自分の寄る辺が見つからない人に読んでほしいですね。例えば、流行を追うメイクと、自分らしさを追求するメイクがあるとして、その両方に対して「いいじゃん!」と思ってしまうタイプ。そういう「自分は絶対にこっちだ!」と決めきれない人に読んでほしいなと思います。

私自身、昔から何かに属することができない人間で。バンドを組んでもすぐ解散してしまうような感覚ですね。けれど、そういう自分の性質が仕事の仕方にいい影響を与えているとも思うんです。例えば化粧品には、プチプラコスメやデパートコスメ、オーガニックコスメ、ドクターズコスメという風に色んなジャンルがありますが、私はその全部に興味があるし、すべてに対していいなと感じるんです。今、フリーランスでいろいろな仕事を受けていますが、そこから生まれる相乗効果が面白いし、毎回違うことに触れられる環境にいる自分は、すごくラッキーだなと思います。

※2 のちに「45歳のじゆう帖」に改題。

BOOK SELECTIONAYANAさんが影響を受けた5冊

『おとなの味』平松洋子(新潮社)

平松洋子さんの、喋っているような軽やかさのある文章がとても好きです。この本は一番最初に出会った平松さんの作品で、大人にしかわからない「味」について綴ったエッセイです。今はなき神楽坂のla kaguで見つけ、面白すぎて立ち読みで一冊読み切ってしまった本です。もちろんその後購入しました。

『食べる私』平松洋子(文藝春秋)

同じく平松洋子さんの本ですが、こちらはインタビュー集です。デーブ・スペクターさんや樹木希林さんをはじめとする著名人に、食にまつわる記憶やこだわりを取材してまとめたものなのですが、取材を受けている人たちが平松さんに心を許している様子が伝わってくるのがすごく好きですね。話の引き出し方もとても上手で、平松さんのことがさらに好きになった一冊です。

『鈴木いづみコレクション〈4〉女と女の世の中』鈴木いづみ(文遊社)

鈴木いづみさんは「この人の文章がとにかくめちゃくちゃ好きだ!」と思った最初の人です。寺山修司の天井桟敷という劇団にも所属していた方で、サブカルチャーの文脈で語られることが多い方なのですが、SF小説やエッセイなども書かれていて、これはそれらの作品をまとめた全集の中の一冊です。

『書くことについて』スティーヴン・キング 田村義進訳(小学館)

スティーヴン・キングが書くことを目指している人に向けて書いた、技巧的な本です。いつ購入したのかもう覚えていないのですが、折り目をつけたりしながらいまだに拾い読みをしています。過去に、星由里子さんが「読むたびに新しい発見がある」と紹介されているのを見て購入しました。

『DOULEUR EXQUISE』ソフィ・カル

ソフィ・カルというアーティストが昔、原美術館でやっていた展示の図録です。ソフィ・カル自身の失恋経験をテーマにした展示で、その別れについていろいろな人に語った内容が記録されています。最初は、私は振られた/捨てられた、というニュアンスの話し方なのですが、時間が経っていくにつれてだんだん話が簡略化されていくなど、別れそのものの捉え方が変化していく様子が読み取れるのがすごく面白いです。

THINGS FOR WRITING書く気分を高めるモノ・コト

〈お香〉
香りは、気分転換や意識の集中に役立っていますね。甘い香りよりも、セージやフランキンセンス、サンダルウッドのようなハーバルウッディ系のほうが精神統一できる感じがして好きです。お香で愛用しているのは、Shin;Kuuというブランドの「10MINUTES AROMA Canister」。1本の燃焼時間がだいたい10分くらいなので、その間に机の掃除をするといった使い方をしています。お香以外には、athletiaやTHREEのルームスプレーも使っています。